とっておきじゃないとだめだ

 数ヶ月後に通っているフラメンコスタジオの発表会がある。かれこれ10年ちょっとお世話になっているスタジオで、発表会に出るのも10回目ちかい。

 観にきてくださった方に配っているプログラムには、出演者の顔写真が載る。そして私は往生際悪く、20代の頃に撮った写真を昨年まで使っていた。発表会前は物入りだからついつい後回しにしてしまいがちなのだ。とはいえ、発表会に出始めた時は「毎年撮り直さなくてもいいけど、3年経ったら新しくしようね」などといわれたのはうっすら覚えている。

 そこで、今年こそと一念発起して以前撮ってもらった写真スタジオに電話したら、自分でもよくわからないレベルのダメージを受けてしまった。

 

 まず、お店の番号にかけたが、電話の向うは名乗らず、一般のお宅にでもかけてしまったのかと焦って確認したら間違っていない。この段階で既に動揺していたけど「○日(平日)に写真を撮ってもらえませんか?」と聞いたら、唐突に「○日かー。今は土日開けてるからね」と言われ、ますます動揺する。確かにお店のサイトには不定休と書いてあった曜日だけど、じゃあ土日ならと食い下がったら今週はもういっぱいで、来週もなんとかで、遅い時間なら出来なくもないという回答。この時点でも私は随分怖じ気づいてしまっていたのだと思う。

 撮影の予約をしたくて電話したのはこちらなのに、次の言葉が出てこなくて一瞬黙ってしまった。そこでいきなり「そちらが非通知でかけてきたからあえて言わなかったけど、番号を教えてくれたら他に空いた日をこちらから連絡してもいい」と言われた。

 もうそこでやめておけばよかったのだが、私がちゃんと説明すればよかっただけなのかもと思い直して「サイズは証明写真と同じだけれど、ダンスの発表会のプログラムに使う写真を撮って欲しい」と伝えたら帰ってきたのが「ああ証明写真よりはちょっとよくしたいってことね」だった。そこで完全に心が砕けた。

 適当なことを言って電話を切った後、よくわからない悲しさと悔しさでしばらくぼーっとしていた。10年もしつこく使い続けてきたとっておきの写真を撮ってくれたスタジオは、恐らく代替わりをしたのだろうけど、もう二度と撮影を頼みたくないスタジオになってしまったし、そもそも、発表会のプログラムのためにプロに写真を撮ってもらいたい気持ちを馬鹿にされた気がした。半分以上被害妄想かもしれないけど、そういう声色に感じた。

 予約は取れなくてよかったのだ。あの電話の向うにいた人に、とっておきの写真を撮ってもらえる気が全然しなかったから。

 同時に、こういう時何故「ちょっとじゃなくてとっておきじゃないとダメです」と言えないんだろう、好きで時間もお金も注ぎ込んでる趣味なのだから、堂々とそういえばよかったのに、と自分を責める気持ちもあって余計ショックだった。こういう時に、自分の趣味に対しても「見栄えの悪い素人のおばさんがはしゃいじゃってみっともない」、「別にプロを目指す人がコンクールやオーディションに出すわけでもないのに張り切り過ぎ」などなど、自分とその趣味を貶すような文言が、よりにもよって自分からどんどん湧いて出てくるのも正直つらかった。自尊心の低さなのか、自信の無さなのかわからないけど、こういう時、自分が必死になって自分を叩くのを上手く止められない。

 

 でも。その数日後のスタジオで、今回一緒のチームで踊る10代のクラスメート話していたら「今日この後撮影なんです」と、きらきらした笑顔で教えてくれて、さらっと心が洗われてしまった。彼女は初めての発表会で、そのために初めてプログラム用の写真を撮る。

 ああこれだよね、こういうワクワクとか楽しみな気持ちがベースにあるからずっとやってきたし、そんなの全然悪びれる必要ないよねと、勝手に立ち直ってしまった。こういうところが、そこそこ長く生きてきた人間のしぶとさなのかも。
 今回はもう間にあわないけど、やっぱり写真は撮りにいこうと思い直した。それと、彼女の写真がとっておきの1枚になるといいなと勝手に思ってる。

 

 完全に蛇足だけど、でもやっぱり。そんなに非通知が嫌なら「非通知お断り」ってサイトに書いて欲しいよね。